FIRE(経済的自立と早期リタイア)で会社員を辞めると、これまで会社が手続きしてくれていた「健康保険」「年金」「税金」を、すべて自分で管理することになります。「会社を辞めたら保険料はいくらになるの?」「年金はどうなる?」——FIRE達成後につまずきやすいこの3つを、この記事でわかりやすく整理します。
なお、この記事は一般的な情報提供です。個別の手続きは、お住まいの市区町村や年金事務所、税務署で必ず確認してください。FIRE全体の進め方は会社員がFIREを目指す5つのステップもあわせてご覧ください。
会社を辞めると何が変わる?前提を理解しよう
会社員時代は、健康保険・厚生年金の保険料を会社が半分負担してくれ、給与天引きで自動的に納付されていました。税金も年末調整で会社が計算してくれていました。
しかしFIREで退職すると、これらの「会社の負担」と「自動手続き」がなくなり、すべて自己負担・自己手続きに変わります。特に退職直後は、前年の高い所得をもとに保険料や税金が計算されるため、「収入がないのに支払いが重い」という状況になりがちです。この点を知っておくことが、FIRE後の家計を守るカギになります。
①健康保険:3つの選択肢から選ぶ
退職すると会社の健康保険を抜けるため、次の3つから加入先を選びます。
- 任意継続:退職前の健康保険を最長2年間継続できる制度。ただし会社負担分もなくなるため、保険料は在職時の約2倍に。保険料には上限があり、所得が高い人ほど有利になりやすい
- 国民健康保険(国保):市区町村が運営する保険。保険料は前年の所得で決まるため、FIRE直後は高く、所得が下がった2年目以降は安くなる
- 家族の扶養に入る:配偶者などが会社員で、自分の年収が一定額(130万円未満が目安)に収まるなら、家族の健康保険の扶養に入れる。この場合、保険料の自己負担はゼロ
このなかで特におすすめなのが「配偶者の扶養に入る」方法です。共働きで配偶者(妻など)が会社員・公務員として働き続けている場合、自分の年収の見込みが一定額(目安130万円未満)まで下がれば、配偶者の健康保険の扶養に入ることができ、健康保険料の自己負担がゼロになります。
さらに大きいのは、このとき同時に国民年金の「第3号被保険者」になれることです。第3号になると国民年金保険料の自己負担もゼロになり(配偶者が加入する年金制度が負担します)、それでいて将来の基礎年金は満額としてカウントされます。つまり、健康保険料も年金保険料も両方ゼロなのに、年金の権利は満額確保できる——FIRE後として最も有利な組み合わせです。配偶者が会社員・公務員を続けているなら、これを狙わない手はありません。
ただし、扶養や第3号になれるのは配偶者が厚生年金に加入している(会社員・公務員の)場合に限られます。配偶者も自営業・無職の場合は対象外なので、その場合は次の任意継続と国保を比較して選びましょう。
どれが得かは人によって異なります。退職直後は「任意継続」か「国保」を比較し、所得が下がる2年目に切り替える、という選び方が王道です。退職時に両方の保険料を試算して比べるのがおすすめです。
②年金:厚生年金から国民年金へ切り替え
会社員は厚生年金に加入していますが、退職すると国民年金(第1号被保険者)への切り替え手続きが必要です。これを忘れると未納扱いになり、将来の年金額が減るので注意しましょう。
国民年金の保険料は月額約17,510円(2025年度)で、60歳まで納付義務があります。会社員時代は厚生年金保険料の中に国民年金分が含まれ会社が半額負担していましたが、退職後は全額自己負担になります。
ただし、退職して無職になった場合は、無理に払うより、いったん支払いを猶予・免除するのが賢明です。国民年金には「保険料免除・納付猶予制度」があり、特に退職(失業)を理由とする特例では、退職した本人の前年所得を除外して審査を受けられます。ただし、審査では配偶者や世帯主の所得も対象になるため、共働きで配偶者の所得が高い場合などは、必ずしも免除・猶予が受けられるとは限りません(その場合は前述の第3号被保険者を目指すのが有利です)。詳しい要件は市区町村の窓口で確認しましょう。免除・猶予を受けた期間も、年金の受給資格期間にはきちんと算入されます。ただし、受け取れる年金額への反映は満額より少なくなり、全額免除の期間は年金額の半分(2分の1)しか反映されません(納付猶予の場合は年金額には反映されません)。この「減ってしまう分」を後から取り戻せるのが、次に説明する追納の大きなメリットです。
そして、後から家計に余裕ができたら、その分を「追納」すれば年金額を満額に近づけられます。追納できるのは過去10年以内の分で、追納した保険料は全額が社会保険料控除の対象になります。所得がある年にまとめて追納すれば節税の手段にもなります。「まずは猶予で支払いを止め、余裕と節税メリットがあるときに追納する」というのが賢い使い方です。
なお、前述のとおり配偶者が会社員・公務員で扶養に入れる場合は、国民年金の第3号被保険者となり、そもそも保険料を払う必要がありません。この場合はこの免除・追納の手続き自体が不要になります。
また、厚生年金に加入しなくなる分、将来受け取れる年金額は会社員を続けた場合より少なくなります。これを補うために、iDeCoの活用や、月400円で上乗せできる付加年金などの制度も検討するとよいでしょう。公的年金の基本は公的年金の仕組みを知っておこう、国民年金の損得は国民年金の損得で解説しています。
③税金:自分で確定申告が必要に
会社員時代は年末調整で会社が税金を計算してくれましたが、退職後は自分で確定申告を行います。FIRE後の税金で特に押さえておきたいのは次の3点です。
住民税は「翌年」にやってくる
住民税は前年の所得をもとに翌年に課税される仕組みです。つまり、FIREした年の翌年は「収入がほぼないのに、前年の高い所得をもとにした住民税」を払うことになります。退職前の年収が高かった人ほど負担が大きいため、1年分の住民税をあらかじめ現金で確保しておくことが大切です。
一方で、退職者向けの特例措置もあります。退職金を受け取る場合、退職金にかかる住民税には「退職所得控除」と「2分の1課税」という特例があり、税負担が大きく軽減されます(ほかの所得と分けて退職金の支給時に課税されるため、翌年の住民税には上乗せされません)。また、退職・失業で所得が大きく減ったときは、お住まいの自治体によって住民税の減免や徴収猶予を相談できる場合があります。負担が心配なときは、早めに市区町村の窓口に問い合わせてみましょう。
投資の利益にかかる税金
配当金や株式の売却益には約20.315%の税金がかかります。ただし新NISAの枠内で運用した分は非課税です。FIRE後の生活費を取り崩すときも、新NISA資産から優先的に使えば税金がかかりません。4%ルールで取り崩す際も、非課税枠の活用が効いてきます。
所得が下がると還付の可能性も
FIRE後は所得が大きく下がるため、特定口座(源泉徴収あり)で配当の税金を払っている場合、確定申告をすると一部が還付されるケースがあります。会社員が使える節税の全体像は税金について知ろうでまとめています。
FIRE後の3つの固定費、目安はいくら?
健康保険・年金は、FIRE後も毎月かかる「見えにくい固定費」です。ざっくりした目安を持っておきましょう(所得や自治体により変動します)。
- 国民年金:1人あたり月約17,510円(夫婦なら約35,000円)。60歳まで
- 国民健康保険:所得が下がれば月数千円〜2万円程度に落ち着くことが多い(前年所得が高い初年度は高額)
- 住民税:FIRE翌年は前年所得ベースで高額。2年目以降は所得がなければ大きく下がる
これらは「年間生活費」に必ず含めて計算しておく必要があります。見落とすとFIRE後の家計が苦しくなる原因になります。
FIRE前にやっておきたい準備
- 退職翌年分の住民税を現金で確保:収入がなくても払う必要があるため、別枠で用意しておく
- 健康保険の保険料を試算:任意継続と国保のどちらが安いか、退職前に比較する
- 年金切り替えの手続きを確認:退職後14日以内に市区町村で国民年金への切り替えを行う
- 新NISAで非課税資産を厚くしておく:FIRE後の取り崩しで税金がかからない資産を増やしておく
まとめ:FIRE後の「3点セット」は事前準備がすべて
FIRE後は、健康保険・年金・税金のすべてを自分で管理することになります。特に注意したいのは、退職直後は前年の高い所得をもとに保険料・住民税が計算されるため、収入がなくても支払いが重くなるという点です。
対策は、①退職翌年分の住民税と社会保険料を現金で確保しておくこと、②配偶者が会社員・公務員なら扶養(=健康保険料・年金保険料がゼロの第3号)を最優先に検討し、難しければ任意継続と国保を比較すること、年金は無職の間は免除・納付猶予を活用し余裕ができたら追納すること、③新NISAで非課税資産を厚くしておくこと、の3つです。これらをFIRE前に準備しておけば、退職後の家計を安定させられます。社会保険や税金も「年間生活費」にしっかり織り込んで、無理のないFIRE計画を立てましょう。
