「ふるさと納税はワンストップ特例を使えば確定申告いらずで簡単」――そう思って、毎年ワンストップ特例だけで済ませていませんか。たしかにワンストップ特例は便利な制度ですが、医療費控除やセルフメディケーション税制など、確定申告でしか使えない節税策を見逃している会社員は少なくありません。この記事では、医療費控除の仕組みと、FIREを目指す会社員ほど確定申告に慣れておいた方がよい理由を、具体的な数字とともに解説します。
なお、この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。控除額や適用条件はご自身の状況によって異なるため、実際の申告にあたっては国税庁の資料や税務署、税理士等でご確認ください。
ワンストップ特例の便利さと限界
ワンストップ特例は、ふるさと納税先が年間5自治体以内で、かつ他に確定申告の必要がない給与所得者であれば、寄附先に申請書を郵送するだけで住民税の控除が受けられる制度です。確定申告の手間がかからないぶん人気ですが、次のいずれかに当てはまると、その年のワンストップ特例の申請はまとめて無効になります。
・ふるさと納税の寄附先が6自治体以上になった
・医療費控除やセルフメディケーション税制を使いたい
・住宅ローン控除の1年目(2年目以降は年末調整でよい)
・副業などの所得があり確定申告が必要
・iDeCoの一時金受け取りなど、他に申告事由がある
つまりワンストップ特例は「他に何もしない人向けの簡易ルート」であり、少しでも節税策を積み増そうとすると、結局すべて確定申告でやり直す必要が出てきます。それなら最初から確定申告で一本化してしまった方が、二度手間にならず合理的です。
医療費控除の仕組みと計算方法
医療費控除は、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、超えた分を所得から差し引ける制度です。計算式は次の通りです。
控除額 =(支払った医療費の合計 − 保険金などで補填される金額)− 10万円
※その年の総所得金額が200万円未満の場合は「10万円」ではなく「総所得金額の5%」が基準になります。控除の上限は200万円です。
対象になるのは本人だけでなく、生計を一にする家族(配偶者や子ども、親など)の医療費も合算できます。通院にかかる公共交通機関の交通費、市販薬の購入費の一部、歯の治療費、出産費用なども対象に含まれるため、家族分をまとめると意外と10万円を超えるケースは少なくありません。
例えば、課税所得500万円(所得税率20%、住民税率10%)の会社員が、年間で家族の医療費として18万円を支払っていた場合、控除額は18万円−10万円=8万円です。所得税と住民税をあわせて、およそ8万円×30%=2.4万円ほど税負担が軽くなる計算になります。医療費控除は確定申告でしか申請できないため、ワンストップ特例だけで済ませていると、この節税をまるごと逃していることになります。
セルフメディケーション税制という選択肢
医療費控除ほど医療費がかからなかった年でも使える可能性があるのが「セルフメディケーション税制」です。指定された市販薬(風邪薬や胃腸薬などのOTC医薬品)の購入費が年間12,000円を超えた場合、超えた部分を最大88,000円まで所得控除できます。例えば年間15,000円分のOTC医薬品を購入した場合、15,000円−12,000円=3,000円が控除額です。ドラッグストアのレシートを保管しておくだけで対象になることが多く、医療費控除に比べてハードルが低いのが特徴ですが、医療費控除とは併用できず、どちらか有利な方を選ぶ形になります。通院や入院で医療費が多くかかった年は医療費控除、市販薬中心で医療費があまりかからなかった年はセルフメディケーション税制、というように年によって使い分けるのが合理的です。
なぜFIREを目指す会社員ほど確定申告に慣れておくべきか
FIREを目指す過程では、新NISAやiDeCoの運用、副業収入、退職金やiDeCoの受け取り方の調整など、確定申告が必要になる場面が何度も訪れます(iDeCoと退職金の受け取り順序については【10年ルール】iDeCo先受取×退職金後受取も参考にしてください)。ワンストップ特例に頼りきりで確定申告を避け続けていると、いざという時に手続きへの心理的ハードルが高くなりがちです。医療費控除のように毎年使う可能性がある制度をきっかけに、早いうちから確定申告に慣れておくことは、将来の資産管理を自分の手でコントロールする力にもつながります。
確定申告自体は、国税庁の確定申告書等作成コーナー(e-Tax)を使えば、源泉徴収票の内容を入力し、医療費の合計額やふるさと納税の証明書(寄附金受領証明書、またはXMLデータ)を入力するだけで、税額は自動計算されます。マイナンバーカードとスマートフォンがあれば、税務署に行かずに自宅から提出することも可能です。
医療費控除を漏れなく申請するための準備
確定申告の時期になって慌てないために、日頃からできる準備があります。
・病院や薬局の領収書は家族分もまとめて保管する(レシートでも可)
・「医療費控除の明細書」は国税庁サイトのフォーマットで随時入力しておく
・健康保険組合から送られる「医療費のお知らせ」を活用すると入力の手間が省ける
・ふるさと納税は「寄附金控除に関する証明書(XML)」を発行してもらうと入力が早い
これらを1年分ためておき、翌年の確定申告時期(2月中旬〜3月中旬)にまとめて入力すれば、ふるさと納税と医療費控除、iDeCoの掛金控除(年末調整に反映されていない場合)を一度に処理できます。会社員の節税策全体については税金について知ろう、ふるさと納税の基本的な仕組みはふるさと納税完全ガイドでも詳しく解説しているので、あわせて確認してみてください。
年収別に見る医療費控除の節税額の目安
医療費控除による節税額は、所得税率が高いほど大きくなります。年間の医療費が家族分で20万円だったケース(控除額20万円−10万円=10万円)を例に、年収別のおおよその節税額をまとめました。あくまで目安であり、扶養家族の有無や他の控除によって実際の金額は変わります。
・課税所得300万円程度(所得税率10%):所得税・住民税あわせて約2万円
・課税所得500万円程度(所得税率20%):所得税・住民税あわせて約3万円
・課税所得800万円程度(所得税率23%):所得税・住民税あわせて約3.3万円
・課税所得1,000万円超(所得税率33%):所得税・住民税あわせて約4.3万円
所得税率が上がるほど医療費控除の節税効果も大きくなるため、年収が高い会社員ほど、ワンストップ特例だけで済ませてしまうのはもったいないといえます。
よくある質問
Q. ワンストップ特例の申請後に医療費控除が必要だと気づいた場合は?
A. 確定申告を行えば、ワンストップ特例の申請内容は自動的に無効になり、確定申告書にふるさと納税の寄附金控除もあわせて記載することで、両方の控除が反映されます。ワンストップ特例の取り消し手続きを別途行う必要はありません。
Q. 医療費控除の申告を忘れていた場合、さかのぼって申告できる?
A. 還付申告は原則として過去5年分までさかのぼって行えます。数年分の領収書が残っている場合は、まとめて確認してみる価値があります。
Q. iDeCoの掛金控除も確定申告が必要?
A. 給与天引きで拠出している場合は年末調整で完了しますが、口座振替で拠出している場合は「小規模企業共済等掛金払込証明書」をもとに年末調整または確定申告での申告が必要です。
まとめ
ワンストップ特例は便利な制度ですが、医療費控除やセルフメディケーション税制のように確定申告でしか使えない節税策を見逃してしまうと、本来受けられるはずの控除を取りこぼすことになります。特に家族の医療費がかさんだ年や、市販薬の購入が多かった年は、一度どちらの制度が有利か試算してみることをおすすめします。ふるさと納税や医療費控除をきっかけに確定申告に慣れておくことは、FIREに向けた資産管理の土台づくりにもつながります。
