会社の退職金を先に受け取り、その後にiDeCoの一時金を受け取る場合、両者の間隔が19年未満だと「19年ルール」が発動し、iDeCoの退職所得控除が削られます。間隔19年以上なら控除はフルに使えます。本記事では55歳早期退職のBさんを例に、65歳と75歳でiDeCoを受け取る2パターンを具体的に計算します。
「19年ルール」誕生の経緯|以前は14年ルールだった
退職金を先に受け取った後にiDeCoを受け取る場合の調整ルールは、かつて「14年ルール」と呼ばれていました。
【改正の歴史】
〜2022年3月31日:14年ルール(退職金受取後14年以内にiDeCoを受け取ると控除が削られる)
2022年4月1日〜:19年ルール(14年→19年に延長)
延長の理由はiDeCoの受取可能最終年齢が70歳から75歳に拡大されたことへの対応です。受取期間が5年延びたため、調整期間も同じく5年延ばして不公平が生じないよう改正されました。
なお、iDeCo先受取→退職金後受取の方向では、同時期に「5年ルール」が「10年ルール」(2026年1月1日施行)に延長されています。
退職所得控除の基本計算式
・加入(勤続)年数20年以下:40万円 × 年数(最低80万円)
・加入(勤続)年数20年超:800万円 + 70万円 × (年数 − 20年)
退職所得(課税対象)=(受取額 − 退職所得控除額) ÷ 2
19年ルールとは
退職金を先に受け取り、その後19年以内にiDeCo・企業型DCの一時金を受け取ると、iDeCoの退職所得控除から「重複期間相当の控除額」が差し引かれます。
重複年数 = min(退職金の勤続年数、max(0、iDeCo加入年数 − 受取の間隔年数))
調整後控除額 = iDeCoの通常控除額 − 重複年数に対応する退職所得控除額
Bさんのプロフィール
・22歳:会社入社(新卒)
・30歳:iDeCo加入開始(上限の月2.3万円を拠出)
・55歳:会社を早期退職・退職金を受け取る(勤続33年、退職金1,800万円)
・退職後もiDeCo拠出を継続(65歳まで拠出可能)
・iDeCo:65歳または75歳に受取(下記2パターン)
退職金の課税計算(55歳・先受取)
退職所得控除(33年)= 800万円 + 70万円 × 13年 = 1,710万円
退職金1,800万円 − 控除1,710万円 = 90万円
課税所得 = 90万円 ÷ 2 = 45万円
税負担:所得税 約2万円 + 住民税 約5万円 = 合計 約7万円(退職金1,800万円に対して非常に少額)
パターンA:65歳でiDeCo受取(19年ルール適用)
30歳〜65歳:iDeCo加入35年 / 受取額:1,500万円
退職金からiDeCoまで:10年(19年未満 → 19年ルール適用)
① iDeCoの通常控除(35年)= 800万円 + 70万円 × 15年 = 1,850万円
② 重複年数 = min(33、max(0、35 − 10))= 25年
③ 重複分の控除相当額(25年)= 800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円
④ 調整後控除額 = 1,850万円 − 1,150万円 = 700万円
⑤ 課税所得 =(1,500万円 − 700万円)÷ 2 = 400万円
⑥ 税負担:所得税 約37万円 + 住民税 約40万円 = 合計 約77万円
パターンB:75歳でiDeCo受取(19年ルール非適用)
30歳〜65歳:iDeCo加入35年(75歳まで受取を繰り下げ)/ 受取額:1,500万円
退職金からiDeCoまで:20年(19年以上 → 19年ルール適用なし)
① iDeCoの通常控除(35年)= 1,850万円
② 19年ルール非適用 → 控除の調整なし
③ 課税所得 =(1,500万円 − 1,850万円)÷ 2 = 0円
→ iDeCo1,500万円が全額非課税
※繰り下げ期間(65〜75歳)の運用益も非課税で積み上がるため、実際の受取額はさらに増加する
2パターンの比較表
| パターンA(65歳・10年後) | パターンB(75歳・20年後) | |
|---|---|---|
| 19年ルール | ✕ 適用あり | ○ 適用なし |
| iDeCo加入年数 | 35年 | 35年 |
| iDeCo受取額 | 1,500万円 | 1,500万円 |
| 通常の退職所得控除 | 1,850万円 | 1,850万円 |
| 重複年数 | 25年 | ─ |
| 調整後控除額 | 700万円 | 1,850万円 |
| 課税所得 | 400万円 | 0円 |
| 税負担(概算) | 約77万円 | 0円 |
まとめ
55歳で退職金を受け取った後、iDeCoの受取を19年以上後(75歳以降)に繰り下げるだけで約77万円の税負担をゼロにできます。
iDeCoは最大75歳まで受取を繰り下げられます(2022年改正)。繰り下げ期間中も運用益は非課税で積み上がるため、19年ルール回避と運用益の拡大を同時に狙える戦略です。早期退職を検討している方は、iDeCoの受取タイミングも併せてシミュレーションしておきましょう。
【ルール改正の変遷まとめ】
〜2022年3月:14年ルール / 2022年4月〜:19年ルール(iDeCo受取上限75歳延長に伴い改正)

