iDeCoの一時金は60歳以上にならないと受け取れません。先にiDeCoを受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、両者の間隔が10年未満だと「10年ルール」が発動し、退職金の退職所得控除が削られます(2026年1月1日施行・旧5年ルール)。間隔10年以上なら控除はフルに使えます。本記事では22歳入社・30歳iDeCo加入のAさんを例に、65歳と75歳で退職金を受け取る2パターンを具体的に計算します。
退職所得控除の基本計算式
・加入(勤続)年数20年以下:40万円 × 年数(最低80万円)
・加入(勤続)年数20年超:800万円 + 70万円 × (年数 − 20年)
退職所得(課税対象)=(受取額 − 退職所得控除額) ÷ 2
10年ルールとは
iDeCo・企業型DCの一時金を先に受け取り、その後10年以内に退職金を受け取ると、退職金の退職所得控除から「重複期間相当の控除額」が差し引かれます。
重複年数 = min(iDeCo加入年数、max(0、退職金勤続年数 − 受取の間隔年数))
調整後控除額 = 退職金の通常控除額 − 重複年数に対応する退職所得控除額
Aさんのプロフィール
・22歳:会社入社(新卒)
・30歳:iDeCo加入開始(上限の月2.3万円を拠出)
・60歳:iDeCo一時金を受け取る(加入年数30年、受取額1,200万円)
・退職金:65歳または75歳に受取(下記2パターン)
iDeCo一時金の課税計算(60歳・先受取)
退職所得控除(30年)= 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
受取額1,200万円 < 控除1,500万円
課税所得 = 0円 → iDeCoは全額非課税で受け取り完了
パターンA:65歳で退職金受取(10年ルール適用)
22歳入社〜65歳退職:勤続43年 / 退職金:2,000万円
iDeCoから退職金まで:5年(10年未満 → 10年ルール適用)
① 退職金の通常控除(43年)= 800万円 + 70万円 × 23年 = 2,410万円
② 重複年数 = min(30、max(0、43 − 5))= 30年
③ 重複分の控除相当額(30年)= 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
④ 調整後控除額 = 2,410万円 − 1,500万円 = 910万円
⑤ 課税所得 =(2,000万円 − 910万円)÷ 2 = 545万円
⑥ 税負担:所得税 約66万円 + 住民税 約55万円 = 合計 約121万円
パターンB:75歳で退職金受取(10年ルール非適用)
22歳入社〜75歳退職(定年延長・再雇用等で継続勤務):勤続53年 / 退職金:2,000万円
iDeCoから退職金まで:15年(10年以上 → 10年ルール適用なし)
① 退職金の通常控除(53年)= 800万円 + 70万円 × 33年 = 3,110万円
② 10年ルール非適用 → 控除の調整なし
③ 課税所得 =(2,000万円 − 3,110万円)÷ 2 = 0円
→ 退職金2,000万円が全額非課税
2パターンの比較表
| パターンA(65歳・5年後) | パターンB(75歳・15年後) | |
|---|---|---|
| 10年ルール | ✕ 適用あり | ○ 適用なし |
| 勤続年数 | 43年 | 53年 |
| 退職金 | 2,000万円 | 2,000万円 |
| 通常の退職所得控除 | 2,410万円 | 3,110万円 |
| 重複年数 | 30年 | ─ |
| 調整後控除額 | 910万円 | 3,110万円 |
| 課税所得 | 545万円 | 0円 |
| 税負担(概算) | 約121万円 | 0円 |
まとめ
iDeCoを60歳で受け取った後、退職金の受取を10年以上後にずらすだけで約121万円の税負担をゼロにできます。
高年齢者雇用安定法の改正で75歳まで雇用継続する会社も増えており、パターンBは現実的な選択肢です。iDeCoの受取を急がず、退職金との間隔を意識した出口戦略が重要です。
