「年収が上がればFIREに近づける」——多くの人がそう考えます。もちろん収入が増えるのは心強いことですが、FIREまでにかかる年数を実際に左右しているのは、年収そのものではなく「貯蓄率」です。年収1,000万円でも手取りをほぼ使い切っていればFIREは遠いままですし、年収400万円でも支出を抑えて着実に投資へ回していれば、ゴールはぐっと近づきます。
この記事では、貯蓄率の正しい計算方法、貯蓄率とFIREまでの年数の関係、そして会社員が無理なく貯蓄率を上げていくための具体的な方法を整理します。FIRE全体の流れを先に押さえておきたい方は、会社員がFIREを目指す5つのステップもあわせて読んでみてください。
貯蓄率とは?計算方法を確認しよう
貯蓄率とは、手取り収入のうち、使わずに残した(投資に回した)お金の割合のことです。計算式はシンプルで、次のようになります。
貯蓄率 =(手取り収入 − 生活費)÷ 手取り収入
たとえば手取りが月30万円で、生活費が月24万円なら、残る6万円が貯蓄・投資に回せる金額です。この場合の貯蓄率は6万円÷30万円=20%となります。
ここで注意したいのは、「額面年収」ではなく「手取り」を基準にすることです。所得税・住民税・社会保険料はそもそも自分で使えないお金なので、分母に含めると実態より低い数字になってしまいます。また、iDeCoや企業型DCのマッチング拠出、財形貯蓄のように給与から天引きされている積立は、手取りには含まれていませんが立派な「貯蓄」です。これらは分子と分母の両方に足し戻して計算すると、より正確な貯蓄率がわかります。
ボーナスがある人は、月単位ではなく年単位で計算するのがおすすめです。年間の手取り合計と年間の支出合計で計算すれば、季節ごとの出費の波にも左右されにくくなります。
貯蓄率が上がると、FIREまでの年数はどれだけ縮む?
貯蓄率がFIREに強く効く理由は、貯蓄率を上げると「毎年の積立額が増える」と同時に「必要な資産額そのものが減る」という、二重の効果があるからです。
FIREに必要な資産額の目安としてよく使われるのが「4%ルール」です。これは、年間支出の25倍の資産があれば、毎年4%ずつ取り崩しても資産が長持ちしやすいという考え方です。つまり支出が少ない人ほど、目標額も小さくなります。
仮に資産ゼロからスタートし、毎年の積立を年4%で運用できたと仮定して、貯蓄率ごとのFIREまでのおおよその年数を計算すると、次のようになります(あくまで単純化した試算であり、将来の運用成果を保証するものではありません)。
| 貯蓄率 | FIREまでの目安年数 |
|---|---|
| 10% | 約59年 |
| 15% | 約48年 |
| 20% | 約41年 |
| 25% | 約35年 |
| 30% | 約31年 |
| 40% | 約23年 |
| 50% | 約18年 |
| 60% | 約13年 |
この表で注目してほしいのは、年収がどこにも登場しないことです。4%ルールを前提にすると、FIREまでの年数は「手取りのうち何割を残せるか」でほぼ決まります。年収が高くても生活費がそれに比例して膨らんでいれば、FIREまでの年数は変わらないのです。
具体例で見てみましょう。手取り年収500万円の人が、年400万円を使って100万円を投資している場合、貯蓄率は20%です。4%ルールでの目標額は400万円×25=1億円になります。ここで生活費を年50万円(月4万円強)削って350万円にすると、投資額は150万円に増え、貯蓄率は30%に上がります。同時に目標額は350万円×25=8,750万円に下がります。この「月4万円の見直し」だけで、試算上はFIREまでの年数が約41年から約31年へと10年ほど短くなる計算です。
もちろん、実際には子どもの教育費や住宅購入など、支出が一時的に増える時期もあります。それでも「貯蓄率が数ポイント変わるだけで、ゴールまでの距離が年単位で変わる」という感覚を持っておくことは、日々のお金の判断をするうえで大きな支えになります。
まずは今の貯蓄率を把握する
貯蓄率を上げる前に、まずは現状を正確に知ることが出発点です。とはいえ、家計簿を1円単位でつける必要はありません。おすすめは、「1年前と今の純資産の差」から逆算する方法です。
銀行・証券口座・iDeCoなどの残高を合計し、1年前と比べていくら増えたかを確認します(株価の値上がり分は除いて、実際に入金した額で考えます)。その増加額を年間の手取り収入で割れば、ざっくりとした貯蓄率がわかります。
この作業を楽にしてくれるのが、キャッシュレス決済の活用です。支払いをクレジットカードやスマホ決済にまとめ、家計簿アプリと連携しておけば、何にいくら使っているかが自動で記録されます。現金払いが多いと支出の把握が難しくなるため、FIREを目指すうえでもキャッシュレス中心の生活にしておくのが合理的です。
貯蓄率を上げる4つの方法
1. 固定費から見直す
貯蓄率を上げるうえで最も効果が大きく、しかも一度見直せば効果が続くのが固定費です。代表的なのは次のような項目です。
- 通信費:大手キャリアから格安SIMに乗り換えるだけで、1人あたり月数千円下がるケースも珍しくありません
- 保険料:会社員は公的保障が手厚いため、民間保険は最小限で済むことが多くあります
- 住居費:家計の中で最も大きな支出。更新や引っ越しのタイミングで見直す価値があります
- 車:購入費・保険・駐車場・税金を合計すると、年数十万円になることもあります
- サブスク:使っていない動画・音楽・アプリの定額サービスは解約します
特に保険は、なんとなく入ったまま見直していない人が多い項目です。会社員が持っている公的な保障と、民間保険の必要性については会社員がFIREを目指すなら生命保険は本当に必要?で詳しく解説しています。
住宅についても、住宅ローンは「レバレッジを効かせて一つの不動産に集中投資している状態」という見方ができます。住居費は貯蓄率に最も大きく影響するため、購入するかどうか、どの価格帯にするかは、FIREまでの年数に直結する判断だと意識しておきましょう。
2. 「先取り投資」で仕組み化する
「余ったお金を投資に回そう」と考えていると、なかなかお金は残りません。給料日の直後に、決めた金額が自動的に投資へ回る仕組みを作ってしまうのが確実です。新NISAのクレジットカード積立や、証券口座への自動入金サービスを設定しておけば、意志の力に頼らずに貯蓄率を維持できます。
毎月いくら積み立てればよいか迷う場合は、新NISAは毎月いくら積み立てる?年代別シミュレーションも参考にしてください。最初は手取りの10〜15%程度から始め、慣れてきたら少しずつ金額を上げていく方法でも十分です。
3. 確定申告で「払い過ぎた税金」を取り戻す
見落とされがちですが、手取りを増やすことも貯蓄率アップにつながります。その手段の一つが確定申告です。会社員の多くは年末調整で税金の手続きが終わるため、確定申告を「自分には関係ない面倒な手続き」と考えがちです。しかし確定申告は、一部のケースを除けばしなくてもよい「義務」ではなく、払い過ぎた所得税・住民税を取り戻すための「権利」です。
医療費控除、ふるさと納税の寄附金控除、株式の損益通算など、確定申告をすることで戻ってくるお金は少なくありません。ふるさと納税もワンストップ特例で済ませるより、自分で確定申告をしておくと、他の控除もまとめて申請でき、税金の仕組みへの理解も深まります。使わないと損をする権利として、積極的に活用していきましょう。
4. 収入が増えても生活水準を上げすぎない
昇給やボーナスアップ、副業収入などで手取りが増えたときこそ、貯蓄率を大きく引き上げるチャンスです。ここで気をつけたいのが、収入の増加に合わせて生活費も自然に膨らんでいく「ライフスタイル・インフレ」です。
おすすめは、収入が増えた分の半分以上を投資に回すルールをあらかじめ決めておくことです。たとえば手取りが月2万円増えたら、1万円以上を積立額の増額に充てます。生活を我慢しすぎることなく、貯蓄率を少しずつ引き上げていけます。
貯蓄率を上げるときの注意点
貯蓄率は高いほどFIREに近づきますが、無理をしすぎると長続きしません。食費や交際費、自己投資まで極端に削ってしまうと、生活の満足度が下がり、反動で浪費してしまうこともあります。削るべきは「なくても困らない支出」であり、自分にとって価値のある支出まで削る必要はありません。
また、投資に回す前に、まずは生活防衛資金を確保しておくことが大前提です。生活防衛資金は、すぐに引き出せて金利も比較的有利なネット銀行に置いておくのが第一候補になります。急な出費のたびに投資を取り崩すことになると、せっかく高めた貯蓄率の効果が薄れてしまいます。
さらに、少しでも早く資産を増やそうとして、FXやCFDのようなレバレッジをかけた商品に手を出すのはおすすめしません。FIREへの近道は、値動きの大きい商品で一発逆転を狙うことではなく、高い貯蓄率で長期・分散・積立の投資を淡々と続けることです。
まとめ:年収より「何割残せるか」を意識しよう
FIREまでの年数を決めるのは、年収の高さではなく貯蓄率です。貯蓄率を上げると、毎年の積立額が増えるだけでなく、必要な資産額も小さくなるため、ゴールまでの距離が二重に縮まります。
- 貯蓄率は「手取り」を基準に計算する(天引きの積立は足し戻す)
- まずは1年前との純資産の差から、現在の貯蓄率を把握する
- 固定費の見直しと先取り投資で、仕組みとして貯蓄率を上げる
- 確定申告という権利を使い、払い過ぎた税金を取り戻す
- 収入が増えたら、増えた分の半分以上を投資に回す
まずは今月、自分の貯蓄率を計算するところから始めてみてください。今の数字がわかれば、「あと何%上げればFIREが何年早まるか」が見えてきます。その具体的な数字こそが、資産形成を続ける一番の原動力になるはずです。

